「断熱工事のススメ」
2020.04.14
断熱基準の歴史
断熱について知るために、まずは性能基準の歴史を振り返ってみます。日本では、1980年(昭和55年)から住宅の省エネ基準が取り入れられるようになりました。この時代の基準は「旧省エネ基準」と呼ばれています。その性能はどんな状態かというと、今と比べると非常に薄い『35mm』の断熱材が、壁と天井、そして床下に充填されていました。
続いて、1992年(平成4年)に「新省エネ基準」へと見直され、50mmという厚みに。しかし、これでもまだまだ夏は暑くて、冬は寒く感じる住宅でした。その後も改正を繰り返しながら、1998年(平成11年)に「次世代省エネ基準」が誕生。
建物の各部位(外壁・窓・天井・床)から逃げる熱損失を合計し、外皮面積で割ることで、外に逃げる熱を数値で表し、可視化できるようになりました。さらに、省エネ設備による消費エネルギーの削減と、太陽光発電によるエネルギーの創出によって、ひとつの住宅で一次消費エネルギーが±0になるZEH(ゼッチ=ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)が誕生し、国土交通省と経済産業省、環境省がタッグを組んで助成金を用意するなど普及活動に乗り出しました。ZEHのような高スペック住宅は新築しかできないと思われる方もいるかもしれません。もちろん、既存住宅の性能を数値化することは簡単ではありませんが、リフォームで新築に近付けることも可能な時代になりました。
断熱性能が低い住宅のリスク
では、性能の低い家で暮らしていると、どのようなリスクがあるのでしょうか。「夏は暑く、冬は寒い」という体感的なものだけではなく、疾患に直結するリスクを誘発するといわれているため、注意が必要です。それでは代表的な疾患例を見ていきましょう。
【1.高血圧】
寒くなると人間の体は体温を逃がさないように血管が収縮するため、血圧が上昇します。高血圧は自覚症状がないケースも多く、心臓病や脳梗塞、脳出血、腎不全といった生命にかかわる病気につながることもあります。
【2.ヒートショック】
浴室・洗面室・トイレなどは居間と室温差があります。また、洗面脱衣室から浴槽に張ったお湯のなかに入る時も、急激な温度変化が起こります。暖かい空間から急に寒い空間へ移動する、またはその逆の移動によって、心臓や脳の血圧が急激に上下し、失神や脳梗塞、心筋梗塞などを引き起こします。これをヒートショックといいます。この症状で、じつに年間19,000もの人が亡くなっています。これは交通事故の死亡者3,904人の4倍以上にあたる数字です。
<ヒートショックの影響を受けやすい人の特徴>
・65歳以上
・高血圧、糖尿病、動脈硬化がある
・肥満、睡眠時無呼吸症候群、不整脈がある
・一番風呂が好き
・熱い風呂が好き ※脱衣室、廊下が寒い家の人は、熱いお湯に長い時間つかると意識レベルが低下して入浴事故が起きる
・飲酒後にお風呂に入ることがある
・30分以上お湯に浸かっている
イギリスでは家の寒さと死亡率の関係を調査した結果、健康を守る温度は18℃以上という基準を定めました。建築をする際にはこの基準を保つよう勧告されていて、それに満たない賃貸住宅には改善や解体命令がでるほど厳しいルールをつくっています。寒さに関する法規制がないのは、先進国のなかでも日本くらいだといわれています。
【3.アレルギー喘息】
暖房時に結露した水分が壁の中に侵入し、カビが発生します。空気の通り道である気道がそれらカビなどの刺激によって敏感になり、発作的に狭くなることを繰り返す病気が喘息です。日本では子どもの8~14%、大人では9~10%が喘息にかかっているとの報告があります。
【4.冷え性】
人間の体は気温が変化しても一定の体温に保つために、血液の流れる量を調節したり、汗をかいたりするようにできています。寒さを感じた場合、その情報が脳の自律神経に伝えられ、体温を一定に保つよう指示が出されます。私たちの体は重要な臓器が集まる中心部を一定の温度に保とうとするため、特に寒いときには末端である手先や足先には血液が行き渡りにくくなり、温度が下がりやすくなって、冷えを強く感じるようになるのです。なお、血行不良を引き起こすと、筋肉のコリや関節痛、神経痛を誘発し、免疫力が低下するため、感染症などの病気にかかりやすくなります。また、体温が1度低下すると、免疫力は30~40%も低下するといわれています。
断熱工事の流れ
それでは「よし、断熱工事をしよう!」と考えた時、どこから着手するかという疑問がありますが、まずはヒートショックを起こしやすい箇所から解決してみるのはいかがでしょうか。例えば、冬場にリビングから洗面脱衣室、お風呂へと移動する際、暖かい空間から急に寒い空間へと出ていくことになります。リビングから廊下に出た途端、「寒いっ!」と感じたことは、誰しも一度は経験があるでしょう。そうした環境から変えていくことをオススメします。その環境をつくるためには、部分断熱リフォームが必要になります。
そこでチェックしておきたいのが、「室内の熱はどこから逃げていくのか?」という点。もっとも多く逃げていくのは『窓』です。これは窓が大きければ大きいほど、性能が低ければ低いほど、逃げていきやすくなります。一般的な住宅の場合、窓(開口部)58%、外壁・換気扇15%、床7%、屋根5%という統計が出ています。
リフォームを検討する場合、ついついキッチンやお風呂など設備機器の交換に目がいきがちです。たしかにキッチンがキレイになると嬉しいですし、食洗器やレンジフードが新しくなると家事や掃除がしやすくなります。変化が目に見えることが、リフォームの醍醐味の一つであることは間違いありません。
ところが、じつは目に見えないところにこそ快適に過ごすためのポイントがあるように思います。家全体をリフォームせずとも、みんなが集まるところ、体に負担をかけるところ(リビングから廊下や洗面脱室、トイレなど)だけでも断熱性能を上げることで、毎日の暮らしが大きく変わります。
オススメの断熱強化メニュー4選
①解体をして断熱材を入れ替える
②解体をせず、既存の壁に断熱パネルを張る
③窓を2重にする
④床の断熱
①解体をして、断熱材を入れ替える
下の写真のように、家の内壁を解体する(剥がす)と古い断熱材が現れます。これら既存の断熱材を撤去して、性能の高い断熱材へと交換。このときに、あわせて柱等の構造の状態をチェックし、必要に応じて耐震補強工事も一緒におこなうと安心です。
「断熱材のはなし」
ダブル断熱(外張り+充填)
②解体をせず、既存の壁に断熱パネルを張る
下の写真で大工さんが張っているものが、LIXILの『ココエコ(ウォールインプラス)』という断熱商品になります。わずかな薄さで大きな断熱効果を発揮する「真空断熱材」を採用し、部屋の内側から快適な暮らしをサポート。パネル一枚の厚みはわずか12mmで、グラスウール215mmと同じ性能値となります。
この断熱パネルの上から石膏ボードを張るため、壁の厚みは全部で21.5mmになります。部屋の反対側の壁にもこのウォールインプラスを張る場合、厚みは合計43mmとなるので、張る前の状態と比べてもほとんど変わらない空間の広さを確保することができます。
③窓を2重にする
これは①と②にも通じる話にもなりますが、熱が一番逃げる箇所の断熱工事が快適な暮らしづくりには欠かせません。LIXILの『インプラス』は、既存の窓の内側にもう一枚窓を取りつけて、断熱性能を向上させる商品です。大きな断熱効果で夏の暑さ・冬の寒さ・結露の悩みを一気に解消。さらに、外からの騒音も、室内の音漏れも軽減します。
④床の断熱
既存の床の上に薄さと強度を備えた12mmの真空断熱材『フロアインプラス』を張ることで、足元から住み心地を改善します。床だけの断熱でも効果はありますが、外気に面している窓・壁・床をあわせて断熱リフォームすることで、より大きな断熱効果が期待できます。
これで断熱工事は終了となりますが、もう少し付け加えるならば、天井のところに防湿透湿シートを張り、熱の損失をさらに防ぎ、より断熱効果を高める方法もあります。防湿気密シートを張ると、なお一層、熱損失がなくなり、エアコン効率も向上します。
まとめ
健康的な暮らしを送るためには、まずは暖かい環境をつくることが何よりも大切です。寒い季節に我慢をするのではなく、快適に過ごすための断熱に注目してください。余談ですが、北海道にある住宅が取材されているテレビ番組を見かけました。そこにはネコが2匹いたのですが、その年齢は24歳という超高齢でした。飼い主の話によると「ネコがここまで長生きするのは、家の中がいつも暖かいからじゃないのかな。私たち人間にとって快適な環境は、ネコにとってもいい環境なんでしょう」とのこと。
断熱工事にはそれなりの費用がかかるので、安心して工事を決意していただくには、事前にその効果性を体験(体感)していただくことが一番だと考えます。LIXIL東京ショールーム(西新宿)内にある「住まいStudio」では、気温や住宅サイズなど同一条件のなかで3種類の断熱性能の違いをリアルに体感することができます。大変人気があってなかなか予約がとりづらい施設ですが、ご興味ある方はぜひ体験してみてください。(※現在、オンラインで疑似体験ができます)
まずは一度、わたしたちにお問い合わせください。